安心して手術を受けていただくために

人工関節手術を受ける皆様へ

 このページは人工関節手術を受ける患者さんや家族の方に、人工関節手術のことを正しく理解していただくためにつくりました。人工関節手術とはどのようなものか、どのようなときに人工関節手術が必要となるか、手術前の処置、手術後の訓練はどうするかなど、人工関節手術を安心して受けていただくためです。また、手術後人工関節との生活になじんで、人工関節を長持ちさせるためにも、皆様に人工関節手術を正しく理解していただきたいと考えています。詳しくは、医師、看護婦、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)に相談をしてください。

松山赤十字病院リウマチセンター部長 山本純己

  • 関節はどのような働きをしているか?
  • どのようなとき人工関節手術が必要か?
  • 人工関節手術に関する7つの質問
  • 人工関節手術を受ける前の準備
  • 人工関節手術後のプラン
  • 人工関節手術退院後の注意
  • 関節はどのような働きをしているか?

    関節はどのような働きをしているか?

     関節には骨の表面に関節軟骨がおおっており、抵抗が少なくスムーズに動けるような構造になっています。そのためには、関節軟骨が十分に厚くて、弾力性が必要です。周囲の滑膜から出る少量の関節液が潤滑油の役割を果たしています。また、関節の周囲には、しっかりとした靱帯が2つの骨を結合させており、筋肉の働きにより自由で複雑な関節運動ができるようになっています(図1)。

     下肢の場合、通常は股関節から足関節に引いた荷重線が膝の中央を通っています。

    (図1:関節略図)

    *

    (図2:下肢のアライメント)

    正常    外反膝

    内反膝

     これに対して、荷重線がずれたもの(これをアライメントが悪いといいます)を外反膝とか、内反膝といいます。これらの変形が生じると、膝にかかる力は異常に大きくなり、変形や関節破壊が急速に進行します(図2)。

     正常のアライメントの膝でも、平地歩行時に体重の3.5倍の力がかかるといわれています。階段や坂道歩行ではさらに増えて、体重の約5倍の力がかかります(体重が5・増えると25・の余分の力が膝にかかることになります)。

    どのようなとき人工関節手術が必要か?

    どのようなとき人工関節手術が必要か?

     関節では骨が十分に厚みのある軟骨におおわれており、スムーズな動きをすることが重要です。この動きが破綻する主な原因には、以下のものがあります。

    (1)関節炎

     代表的なものが慢性関節リウマチです。慢性関節リウマチでは、関節の腫れ(滑膜炎)が続くと滑膜からサイトカイン、酵素、細胞などが多量に出てきて、軟骨や骨を破壊します。その他に、結晶性関節炎もあります(図3右)

    (2)関節にかかるストレスの増加

     関節に異常に強い力長期間繰り返し働くと、軟骨や骨を破壊します。その原因には、力仕事、スポーツなどによる関節の使いすぎ、体重増加、内・外反変形膝、外傷などがあります(図3左)

     以上、(1)(2)などの原因により関節の軟骨や骨が傷害されてくると、関節を動かしたとき、ときには安静時にも痛みがでてきます。その後、関節の運動域の制限、筋力の低下、横ゆれが生じ、日常生活にも支障をきたすようになります。

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    (図3:OAとRAの関節図)

    変形性関節症の関節

    (OA; osteoarthritis)

    慢性関節リウマチの関節

    (RA; rheumatoid arthritis)

     人工関節手術にふみきるかどうかは、レントゲン写真で、関節破壊が元にもどらないほど破壊されていることも重要な判断の根拠となります。しかし、それだけではなく、関節の痛みや運動制限のため日常生活(ADL)や、生活の質(QOL)がどこまで制約を受けているかを診断します。

     手術で関節の機能が改善されれば、生活レベルがどの程度向上するかを医師はPT、OTなどと総合的に判断して手術適応を決めます。

    人工関節手術に関する7つの質問

    Q1人工関節手術をすれば痛みはとまりますか?

    A 私たちの経験では、人工膝関節の場合、約95%の人は手術後膝の痛みが消失しています。しかし、残りの5%くらいは、違和感などが残る人もいます。これは、人工関節で置き換えるのは破壊された軟骨と骨だけですので、たまに周囲の靭帯や筋力に痛みが残る場合があるようです。

    Q2人工関節手術はどのくらい長持ちしますか?

    A 松山赤十字病院リウマチセンターのデータですが、人工膝関節手術を1996年までに1,350関節行いました。これらの人たちの手術後の経過を調査した結果、10年間のサバイバルレイト(人工膝関節が体の中でうまく働いている率)は90.5%でした。これは、10人の人が人工膝関節手術を受けると、その後10年間に9人は問題なかったが、1人ぐらいは再手術が必要であったということを示すデータです。

    現在は、人工関節のデザインも改良され手術成績ももっと向上していますし、後で述べる注意事項を守れば、さらに再手術の率は減ると考えています。

    Q3手術は危険ですか?

    A 手術の危険度は通常の大手術と同様と考えていただければいいと思います。手術前に全身症状を詳しく検査し、十分な対策をとりますが、やはり手術は全く安全とはいえないと思います。特に高齢者、慢性関節リウマチの重症度の高い人では危険度は増すといえます。手術の安全を高めるためには、人工関節手術の経験を多く積んだ術者、手術助手、麻酔医、看護婦、PT、OTが討論を重ね、チームで参加する体制ができていることが大切であるといえます。

    Q4人工関節手術は痛いものですか?

    A 人工関節手術の麻酔では人工関節手術を熟知した麻酔医が担当することが重要で、当院ではそのようにしています。手術中は痛くないようにします。安全性を高めるため当院では、人工膝関節、人工股関節の手術の場合、通常は脊椎麻酔で下半身だけ麻酔をかけるようにします。したがって、手術中、意識ははっきりしています。希望により、手術中、眠らせてもらうことも可能です。

    手術後も、麻酔のチューブを脊髄の硬膜外に残していますので、適宜麻酔薬を入れ、手術後の痛みをとることも可能です。

    *

    Q5人工関節手術には輸血が必要ですか?

    A 人工膝関節手術の場合、通常1,000cc近い出血が手術中、手術後にみられます。しかし、私たちは他人の血液を輸血しない方針をとっています。そのためには、手術前に貯血といって、本人の血液を採り、保存します。手術中および手術後の出血に対してはその本人の血液を使用します。その他、血液回収装置(セルセーバー)を使い、手術中および手術後に出血した血液は濾過してまた体に返す方法も同時に活用します。

     これらの方法により、通常は輸血なしで人工関節手術を行うようにしています。人工股関節手術の場合もほぼ同様です。人工肘関節手術では出血が少ないので通常は輸血は不要です。

    Q6入院期間はどのくらいかかりますか?

    A 膝、股関節の場合、入院し手術までに自分の血液の貯血や全身の検査のため約3週間を要します。

    手術後は、手術をした関節に血液を抜くための管(ドレーン)を入れています。管が抜けると膝に布製のサポーターをつけて歩行訓練を開始します。最初は歩行器を使って歩きます。人工股関節や片膝の人工関節手術の場合、通常は手術後6週間で、また人工肘関節では4週間で退院が可能になるまで回復します。

     しかし、手術のタイミングが遅れて骨の破壊が強い場合や骨移植を要する人、筋肉の力が弱い人、両膝手術を行った人、また慢性関節リウマチでは薬物療法がうまくいっていない人などでは、当然これより長い期間の入院治療、リハビリが必要となります。

    Q7人工関節を長持ちさせるコツは何ですか?

    A 人工関節手術は前述のように永久的なものではありませんので、手術後の注意事項を守っていただきたいと思います。 

     まず、手術後の日常生活では歩きすぎなど無理をしないこと、指導された正しい動作を守ること、定期的な(少なくとも年に1回)レントゲン検査や医師の診察を受けることが大切です。また、何か異常(たとえば、手術部に発熱、発赤、異常な痛みなど)がみられたらすぐに手術を受けた病院を受診して下さい。

    人工関節手術を受ける前の準備

    人工関節手術を受ける前の準備

     入院後、全身の健康診査を行います。心臓、肝臓、肺などに異常がないかどうか、貧血はないか、異常があっても手術を受けられる程度か、などチェックします。

    (1)貯血

     原則として、私たちは人工関節手術は他人の血液は輸血しない方針をとっています。手術中および手術後の出血対策のため、手術前に自分の血液を貯血しておきます。手術中および手術後に膝、股関節の手術では約1,000ccの出血が予想されますので、貯血した自己血を体にもどします。また、手術中、手術後の出血を血液回収装置(セルセーバー)で濾過して体に返す方法も併用しています。

    (2)剃毛・消毒

     剃毛は現在あまり行いません。手術場で手術する部位の洗浄、消毒を行っています。

    (3)手術の説明

     手術に関しては、主治医が手術前に詳しく説明をしますので不明な点は質問して下さい。麻酔医からも手術に使う麻酔法の説明があります。その他心配なことは、主治医、看護婦に相談して下さい。

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    (4)手術前の訓練

     手術前にPT、OTによる関節の動きや筋力の測定と訓練の指導があります。

     特に人工膝関節の手術では大腿四頭筋の筋力が手術後の経過に大きく影響しますので、手術前からの訓練が大切です。特に、図4のような膝関節の大腿四頭筋のセッテイングのコツもおぼえ、訓練を十分に行って下さい。

     人工関節手術では手術を受ける関節の状態だけではなく、全身の他の関節の状態も手術後の経過に影響します。したがって、全身の関節を評価して、手術後の対策のプラン作りをするように心掛けています。

    (図4:大腿四頭筋のセッテイング)

    人工関節手術後のプラン

    人工関節手術後のプラン

    (1)人工膝関節

     手術後の膝は厚い綿包帯に巻かれて固定され、軟らかい拳上台にのせるようにします。膝関節内には、血液排出用のドレーンが通常2本入れられています。ドレーンは出血状況で異なりますが、48時間〜72時間で抜去されます。手術後に創の痛みが強いときは、背部の脊髄硬膜外に入れられているチューブから痛み止めを注入することも行います。

     膝関節内のドレーンを抜去すると手術後の運動訓練が開始されます。最初は膝ブレイスを装着して歩行器を使用して、トイレなど短距離の歩行から始めます。その後は筋力、特に膝関節の大腿四頭筋の筋力増強訓練が重要で、この筋肉の力が回復しますと、装具は不要となります。

     手術後に経過は手術方法の違いや、痛みの程度、筋力の回復程度などをみながら医師とPT、OTが指導します。標準的な場合は、手術後6週間で退院が可能です。

    (2)人工股関節

     手術部は弾力包帯で巻かれ、両足の間にウェッジマットをはさむようにして固定されています。ウェッジマットは、両足を開けるようにさせるためで、これは手術後の股関節の脱臼を予防する目的で使用します。

     股関節には血液排出用のドレーンが通常2本入っています。手術後の出血状態をみて、48〜72時間後に抜去します。

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    ドレーンを抜去した後、ベット上で体を起こすことも可能です。手術後8日目より歩行器を使っての歩行を開始します。

     ベットから下りるとき、またベットに上がるとき、手術をした股関節を内旋、内転しないような注意が必要です。最初は看護婦やPTの助けをかりて、動作に慣れるようにしましょう。筋力がつき、歩行が上達すれば退院に向けてさまざまな応用動作の訓練を行います。平均約6週間で退院が可能な歩行状態となります。

     手術方法の違いなどによって、手術後の経過は少し変わってくることもあります。医師、PT、OT、看護婦によく相談して下さい。

    (3)人工肘関節

     手術後、肘関節はギプスシーネで固定されています。肘関節には細い血液排出用のドレーンが1本入っています。ドレーンは通常48時間で抜去されます。

     手術後2週間はギプスシーネで固定し、三角巾で上肢をつるようにします。肘関節の固定中にも、主指の屈伸運動や肩関節の運動訓練は重要ですので、PT、OTの指導のもとで行って下さい。

     通常15日目よりギプスシーネを除去し、肘関節の屈伸、回旋訓練を開始します。その後、日常生活に必要なADL動作の応用訓練も行います。創の治りがよければ手術後4週間で退院が可能となります。

    人工関節手術退院後の注意

    定期的な受診を行って下さい

     少なくとも毎年1回のレントゲン検査と診察が必要です。診察では人工関節の運動性、筋力の状況、レントゲン写真では人工関節の磨耗、ゆるみの有無などチェックします。たとえ人工関節にゆるみが生じても、早く発見して人工関節周囲の骨が十分に残っていれば再手術も比較的容易です。

    突発的な出来事

     手術した関節やその周囲が腫れたり、熱感の生じた際にはすぐ外来受診をして下さい。手術後、最も心配なことは手術部の化膿(感染)です。感染をおこしても、処置が早ければ人工関節を抜去しなくても治ることが多いので、一刻も早く受診されることを勧めます。

     転倒して、手術部が痛いときも早めに受診し、骨折などがないかどうかを確認します。

    *

    日常生活上の注意

     膝、股関節の手術では、歩きすぎに気をつけて下さい。足腰が衰えるのを予防すると称して無理に長歩きすることは、人工関節にとって決してよいことではありません。

     膝関節の場合、筋力強化訓練(特に大腿四頭筋のセッテイング)を毎日欠かさずに行って下さい。筋力が弱まると膝関節に痛みがでることがあります。

     股関節では、日常生活動作で足を交差させたり、股関節を内旋するような動作をひかえて下さい。脱臼のおそれがあります。

     体に感染源(化膿をおこすこと)を作らないように、むし歯、蓄膿、ひょうそう、水虫など早く治療して治しましょう。

     以上のような注意を守り、筋力訓練を日課とし、定期的な診察を忘れずに、人工関節手術の生活を楽しんで下さい。


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